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【小説/リトバス佐々美】 リトル・ジャンパー

「リトルバスターズ!」より、佐々美と古式さんメインのSSです。
佐々美ルートならびにリフレインのネタバレ注意。
私が大好きなリトバス×女神転生MADに出てくるジャンパー姿の佐々美が見たかったんです。

リトル・ジャンパー

 五月半ば。女子ソフトボール部次期キャプテン候補、笹瀬川佐々美はスランプに陥っていた。
 原因は意中の人、宮沢謙吾。彼が所属する何だかよく分からない集団『リトルバスターズ』に、女子生徒が何名も参加したというのだ。そのうち一人は、よりによってルームメイトである神北小毬。恋愛沙汰にはすこぶる鈍い小毬だが、佐々美にとっては由々しき問題。謙吾はただでさえ女子生徒からの人気が高いのだから、佐々美から見れば恋敵が増えたも同然だった。

 部内の練習試合で、佐々美はピッチャーマウンドに立っていた。
「今は試合に集中しなさい……でも宮沢様が見ていらっしゃるのなら、失敗する姿など見せられません……!」
 雑念を含んだ佐々美の投球は真直ぐキャッチャーミットを目掛け──カキィン! 甘い球を見逃さなかった後輩バッターがそれをホームランに変える。申し訳なさそうにダイヤモンドを駆ける後輩を後目に、佐々美はがっくりと膝を付いた。
「わたくしとしたことが……」
 その後の練習も散々だった。バットを握ればツーアウト満塁という絶好のチャンスで見逃し三振。挙げ句の果てにはコーチからピッチャー交代を言い渡された。練習が終わると、いつもの取り巻きが佐々美を慰めに来る。
「佐々美様、気を落とさないで下さい。きっと明日は上手くいきます!」
「そんな気休めを言われても、わたくしのプライドが許しませんわ……少し一人にしてくださる?」
 心配そうに顔を見合わせる後輩たちを部室に残し、校内を歩いていると、
「なんだ、部活で上手くいかなかったのか? それとも具合が悪いのか?」
「……棗鈴!」
 このタイミングで宿敵登場。腹の立つことに、部活で上手くいかなかったのも、具合が悪いのも、両方正解だ。
「いいでしょう、ここで決着をつけて差し上げますわ!」
 虚勢を張って跳びかかるが、結果は完敗。さらに「戦利品だ」とか言いながら、愛用していたリップクリームを取られてしまった。
「くっ……覚えてらっしゃい!」
 負け惜しみの言葉を残して裏庭に駆け込むと、佐々美は息を飲んだ。見紛うことのない銀髪、紺色の羽織り姿。とっさに木陰に身を潜め、その姿をじっくり観察する。
「宮沢様! その隣にいるのは?」
 眼帯をつけた女子生徒が謙吾と並んでベンチに座っていた。あれは確か弓道部の古式だ。
 まさか、逢い引き──そんな絶望的な単語が頭を掠め、佐々美は今すぐにでも飛び出して二人の仲を引き裂いてやりたい衝動に駆られる。しかし行動に移すより先に古式はベンチから立ち上がり、謙吾に頭を下げるとその場を立ち去った。やがて謙吾も立ち去ると佐々美は大きな溜め息を漏らした。
「はぁ、今日は厄日ですわ」
 どうしてこうも悪いことが連続するのだろう、すっかり自信を喪失した佐々美は女子寮の自室に戻る。
「さーちゃん、おかえり~! どしたの、元気ないねぇ」
 甘い香りを纏った小毬が出迎えた。またお菓子を作っていたのだろう。「ちょっといろいろありまして……」と言葉を濁すと、小毬は焼きたてのホットケーキを差し出してきた。
「これ食べて元気になーれ! さーちゃんが幸せだと私も幸せ。私が幸せだとさーちゃんも幸せ」
 小毬は人差し指を立て、いつもの『幸せスパイラル理論』を語り始めた。実際、小毬の作るお菓子やケーキの類は本当に元気が出る。小毬特有の魔法のようなものだった。

 騒ぎが起きたのは数日後、午後の授業中のことだった。突然校内放送が流れ始め、クラス内はざわつき始める。授業担当の教師が「落ち着きなさい!」と声を張り上げるが効果は無かった。
 少し間をおいて、廊下の向こうから何やら喧騒が聞こえてくる。男子生徒数人と教師たちが衝突しているようだった。直後、今度は窓側から野太い声。
「うおりゃああああぁぁぁぁぁ!」
 この声は、間違いなく謙吾のものだ。その時点で佐々美はリトルバスターズがまた騒ぎを起こしたのか、という程度にしか考えていなかった。
 授業が終わる頃には、噂は全校中に広まっていた。『自殺を図った生徒を庇い、宮沢謙吾が屋上から転落した』、と。それを聞いた瞬間、佐々美の顔から血の気が失せた。屋上から転落など無事ではいられないだろう、まさか飛び降りようとした生徒に代わって命まで──?
 すぐにでも安否を確認しに行きたかったが、生憎そのような度胸を持ち合わせていなかった佐々美は携帯電話を取り出す。
『宮沢様が屋上から転落したと聞きましたが、ご無事なのでしょうか?』
 手早くメールを打つ。送信先は謙吾と同じクラスでもある小毬だ。ややあって、携帯が振動して返信が来たことを知らせる。
『謙吾少年は片腕にヒビが入ったようだが無事だ。ちなみに小毬君は慌てふためいてコマリマックス状態だ。 代返:来ヶ谷』
 佐々美はホッと胸をなで下ろす。謙吾を気に掛けているのが来ヶ谷にバレてしまったが、この際仕方がない。
 一方で、別の噂を耳にした。自殺を図ったのはあの眼帯の女子生徒、古式だというのだ。謙吾が怪我をしてまで護ったということは、やはり──
「確かめに行きましょう」

 今日の部活を終えて足早に女子寮を目指すと、リトルバスターズの男子達と出くわした。とっさに建物の影に身を隠すと、謙吾はギプスで固めた左腕を吊っている。
「なんと痛々しい姿に……わたくしと宮沢様の間に立ちはばかるだけでなく、あのような怪我を負わせるなんて……ただでは済ませませんわ!」
 佐々美は怒りに任せて古式の部屋を乱暴に開けるが、その途端に怒りは鎮まった。
「宮沢さんには相談に乗っていただいていただけで、決して恋仲というわけではありません」
 右目の視力を失って弓道の道を閉ざされた、というのは校内でも有名な話だ。生きる希望をなくして自殺を図ろうとしたところ、謙吾に助けられたということらしい。
「弓道を続けられなくなったからといって、自殺などする必要はないでしょう!」
「宮沢さんにも同じことを言われました。笹瀬川さんは、仮にソフトボールを続けることができなくなったらどうしますか?」
「そ、それは……」
 佐々美はそのまま返答に詰まってしまった。
「あの人は、別の楽しみを探せ、って言うんです。でも私にはそれが見つからない」
 古式はそのまま目を伏せる。だからこそ、佐々美はこう答えていた。
「差し出がましいようですが……それを探すお手伝い、させていただけませんか?」
「え……?」
 その意図を掴めずにいる古式は、眼帯に覆われていないほうの目で佐々美を見つめる。
「あなたは宮沢様に助けられたのでしょう? それなら、あなたが希望を失わずに生きていける何かを見つけること、それが恩返しになるのではなくて?」
「ですが、それを笹瀬川さんに手伝っていただくのは……」
「実は……わたくしも宮沢様に何かしてあげたくて……」
 佐々美は謙吾への想いを古式に打ち明けた。
「そういうことですか。それでは、私からの恩返しと、笹瀬川さんの恋愛成就を込めて」
 それから小一時間、謙吾を喜ばせることができる案を二人で出し合った。
「殿方ですから、お菓子などはあまり喜ばないでしょうか……」
「剣道以外にも読書が趣味と話していましたが、あれはきっと私を説得するための口実だと思います。本当のご趣味とは何なのでしょう」
 結局その日は結論が出ず、消灯時間も迫っていたためお開きとなった。佐々美が部屋に戻り、ドアを開けると、
「うわぁぁぁん、謙吾くんが怪我して、さーちゃんも帰ってこなくて、心配したよぉぉーー!」
 コマリマックス状態の小毬に出迎えられるのだった。

 翌日、寮から校舎への短い通学路を取り巻きと共に歩いていたとき、リトルバスターズの面々がちらりと見えた。
「宮沢様、見慣れない服装をしていらっしゃいますね……」
 同じようにバスターズの面子を確認した取り巻き達が棗鈴とのバトルかと身構えていた。それを放置して佐々美は気付かれないように謙吾の後を追う。
「あのジャンパー、背中の刺繍は一体……?」
 ひとまず教室へ入ると、今度は違う噂が飛び交っていた。『怪我をした宮沢謙吾が一晩でリトルバスターズのロゴ入りジャンパーを作り上げた』、と。
 その時、佐々美は妙案を閃き、授業が始まる前に古式のクラスへと走り、その案を伝えた。
「リトルバスターズのロゴ入りジャンパーを人数分、ですか」
「ええ。宮沢様はそのジャンパーを大変気に入っているようでして、全員分揃えれば喜んでいただけるのではないかと」
 古式は左目を開いては閉じ、それを繰り返していた。
「片目で裁縫ができるでしょうか……いえ、宮沢さんも片腕でやってのけたということですし、ものは試しですね。それでいきましょう」
 授業五分前を知らせる予鈴が鳴る。二人は顔を見合わせ、同時に同じ台詞を発した。それは奇しくも、リトルバスターズ内の合言葉と同じものだった。
「「ミッション、スタート!」」

 小毬の情報によると、五人から始まったリトルバスターズは十人で確定のようだ。謙吾はすでに自分用のジャンパーを作っているから、あと九着。ルームメイトである小毬にも悟られないようにジャンパーを人数分揃えるのは至難の業だろう。
「まずは体のサイズが分からないと準備もできませんわね」
 小毬に関しては、部屋にある小毬の普段着のサイズを見れば一目瞭然。棗鈴は何度も戦っているから、佐々美とほぼ同じ背丈であることは分かっていた。毎日日傘を差して中庭で読書をしている西園美魚も同じくらいの背丈だろう。特徴的なツインテールで校内を騒がせている三枝葉留佳は一回り背が高いが、四人ともMサイズで大丈夫だろう。
 能美クドリャフカは一際小さい体格だからSサイズ。少し前に小毬から聞いた話では、直枝理樹に来ヶ谷の女子制服を着せて遊んでいたことがあるそうだから、直枝と来ヶ谷の二人とも体格はほぼ一緒ということでLサイズ。棗先輩と井ノ原真人──あの筋肉ダルマ──も同様にLサイズだ。
 必要なサイズが分かったところで古式に連絡を取り、できるだけ近いデザインのジャンパーを商店街まで探しに出る。
「ええと、Sサイズ一着、Mサイズ四着に、Lサイズ四着、でよろしいでしょうか」
 その複雑な買い方に、服屋の店員も戸惑っていた。これで第一段階クリア。
 続いては刺繍のデザインだ。それを調べるため、佐々美は取り巻きを招集した。人数分のデジタルカメラを用意し、いろいろな角度からジャンパー姿の謙吾を撮影するよう命じる。取り巻きの一人が「盗撮ですか……?」と怪訝そうな顔をしてきたが、「おだまりなさい」と一喝。
 そうして刺繍の資料も集まった。左胸の位置には炎の背景とアルファベットのチーム名、背中は棗鈴に由来するのか、猫の絵があしらわれていた。
「これを再現するのですね……」
 佐々美の自室では小毬に見られてしまうので、古式の部屋で作業を行うことにする。チャコペンシルを使ってジャンパーに下絵を描き、それに合わせて糸を縫っていく。左目だけで悪戦苦闘していた古式も要領を掴んだらしく、徐々に作業ペースを上げていた。
「初めは左目だけで裁縫ができるか不安でしたが、実際にやってみると意外と楽しいですね。宮沢さんが言っていた『別の楽しみ』というのは、これだったのかも知れません」
 そう言って古式は佐々美に微笑みを投げ掛ける。
「そうですか、わたくしも古式さんの楽しみを探すお手伝いができたことを嬉しく思っていますわ」
 佐々美のそれは決してお世辞などではなかった。スポーツに青春を賭ける人間として、佐々美も古式と同じ想いでいたからだった。今後も裁縫を趣味にしてもらえたら──そんな願いが佐々美の心の中に芽生えていた。

 ある日、リトルバスターズが運動部の部長連合チームと野球試合を行うという噂が耳に入ってきた。なんでも、謙吾も左腕にギプスをしたまま試合に出場するという。古式もその噂を耳にしたらしく、二人でリトルバスターズの勝利を祈っていた。噂は全校に広まり、試合当日の土曜日にはグラウンドにギャラリーが押し寄せていた。佐々美と古式もギャラリーに混じって試合を観戦する。
 試合形式はソフト部の練習試合と同じく、五回までの攻撃で終了。状況は五回裏、リトルバスターズの攻撃。三対ゼロで部長チームがリードしている。七番の葉留佳と八番のクドリャフカが凡退してツーアウトランナーなし、次のバッターは九番の小毬だ。試合は決したかのように思われた。
 チームの監督を務める直枝が小毬に指示を出す。ソフト部のエースである佐々美が見てもそれは的確な指示だった。小毬は三塁方向へと転がるセーフティバントで一塁に出る。続く一番バッター、来ヶ谷もライト前のヒット。二番の棗先輩はというと、ボール球を的確に見極めてファーボール。ツーアウト満塁、逆転のチャンスが見えてきた。
 バッターボックスに立ったのは──ギプスをしたまま右手にバットを握る宮沢謙吾その人だった。

 謙吾は一度目を閉じ、次に開いたその瞳には何かが宿っているようだった。
片腕だけで握るバットを構え、ピッチャーを睨みつける。ピッチャーが第一球を投げる。その投球は真っ直ぐキャッチャーミットを目掛け──
「メーーーン!」
 剣道の掛け声と共にフルスイングしたバットが球を捉え、最高の角度で空へと昇る。打球はセンターを大きく越え、グラウンドの向こうへと消えていった。審判が大きく叫ぶ。
「ホームラン!」
 ギャラリーの声はどよめきから歓声へと変わった。まさかの逆転満塁サヨナラホームランだ。当の謙吾はというと、「ヒーローインタビューは俺のものだ!」と叫びながらダイヤモンドを駆けていた。

 その夜、部屋では小毬が上機嫌だった。勝てるわけがないと誰もが思っていた相手に勝ったのだ、当然だろう。
「あなたの打順から試合の流れを変えましたね、見事でしたわ」
「ふぇ? そんなことないよ、理樹君が指示を出してくれたおかげだよ。それより明日は祝賀会やるんだ、私がホットケーキいっぱい焼くんだよ~」
 なるほど、上機嫌だったのはそれもあったのか。
「その祝賀会、少しだけ参加させていただいてもよろしいですか? わたくしもお祝いがしたいのです」
「お祝い? さーちゃんありがとぉーー!」
「ちょっ……神北さん、苦しいですわ……っ!」
 小毬に抱きつかれてもがく佐々美だった。

 翌日、日曜日の早朝から古式とともに追い込みをかけ、一気にジャンパーを完成させる。
「さあ、これを祝賀会に持って行きますわ!」
 会場である食堂へ足を向けると、乾杯の音頭を取る小毬の声が聞こえてきた。佐々美が食堂の扉を開けると、そこはパーティー会場と化していた。壁という壁に飾り付けがしてあり、音響設備もマイクからアンプまで揃っていた。
 二人の姿に真っ先に気付いたのはクドリャフカだった。
「あれ……さささささーさん、どうしてここに? あと、えーっと……古式さん、でしたか」
「さ・さ・せ・が・わ・さ・さ・み、ですわ!」
 その声を聞き付け、全員が集まってくる。
「笹瀬川に古式か。どうした、お前たちも祝いに来てくれたのか」
「宮沢様……え、ええ。き、今日はちょっとしたお祝いの品を届けに来ましたの」
 そう告げると、古式が紙袋から手製のジャンパーを人数分取り出す。
「これは、リトルバスターズジャンパー! お前たちが作ってくれたのか?」
「はい。私と笹瀬川さんで、宮沢さんに恩返しがしたいと思いまして」
 マイクを手にした棗先輩が品定めをするようにジャンパーを眺める。
「おっ、ちゃんとサイズも合わせてるじゃないか。よしみんな、これを着て一層盛り上げるぞ!」
 その声はマイクを通してエコーがかかり、食堂中に響き渡る。一方、直枝がジャンパーの刺繍を見つめながら冷静に言った。
「これ、僕らが試合に勝ってから作ったものじゃないよね。もしかしてあらかじめ準備しておいたの?」
 その質問に答えることができず、佐々美は古式の腕を強引に引っ張る。
「……えっと、わたくしたちはこれで用件が済んだので、失礼させていただきますわ!」

    *  *  *

 修学旅行の際に一台のバスが転落事故を起こし、リトルバスターズの面々を含むクラスが被害を受けた。あれだけ活気のあったクラスは学校中を探しても他になかっただろう、いや、あるいは併設校すべてを廻っても見つからないかもしれない。それだけ賑やかなメンバーだった。仮にそのメンバーの一人でも欠けていたら、学校の雰囲気も一変していたかもしれない。
 あれほど悲惨な事故であったにも関わらず死者が出なかったのは、文字通りの奇跡だろう。 佐々美はその奇跡を起こした人物を知っていた。直枝理樹。彼のおかげで佐々美がかつて一緒に過ごした黒猫、クロも報われたのだ。

 そして今、佐々美はリトルバスターズの十一人目のメンバーとして迎えられていた。
「俺達は遊びだが、容赦はしない。それがリトルバスターズだ」
「望むところですわ、わたくしも容赦しませんわよ!」
 特にポジションが同じピッチャーの鈴とは良きライバルとなりつつあった。しかし、何かを忘れている気がする。
「宮沢様、修学旅行前に怪我をしていた腕は良くなりましたの?」
「ん? 怪我なんてしていたか……?」
「確か部長チームと試合をしたときは左腕にギプスを──」
 そうか、思い出した。最初から『怪我などしていなかった』のだ。それでは、あのジャンパー姿の記憶は何だったのだろうか?
 疑問を抱きつつ、女子寮へ帰る途中で小毬に相談してみる。
「うーん、私もあの頃のことはあんまり憶えてないんだけど」
 少し首を傾げる小毬だったが、何かを思い出したように呟いた。
「関係あるかどうか分からないけど、お兄ちゃんのお墓参りに行ったときに謙吾くんの姿を見た気がするんだ」
「お墓……誰かが亡くなった……宮沢様が怪我を……思い出しました!」
 佐々美は小毬の腕を掴み、校門へと駆け出す。
「ほぇぇ? さーちゃんどうしたの?」
「リトルバスターズのジャンパーを作るんです、十一人全員分!」

 どこから聞きつけたのか小毬と佐々美の部屋にはリトルバスターズの女子メンバー全員が集まって刺繍の作業をしていた。もっとも鈴と葉留佳はすぐに飽きて投げ出し、周囲でドタバタと騒いでいる。クドリャフカは細かい作業が得意なようで、悪戦苦闘する小毬と美魚に手際よくコツを教えていた。
 一番作業が早いのは、予想通り来ヶ谷だった。「これで金儲けのひとつでもできるだろう。ほら、願掛けの諭吉だ」と全く違う図柄の刺繍を差し出す。
「来ヶ谷さん、真面目にやってくださいます……?」
 一悶着ありつつも、一晩で全員分を作り上げた。完成した全員分のジャンパーを見た美魚が疑問を投げかける。
「笹瀬川さん、一着多くありませんか?」
 その質問には「これは予備ですわ」と答えておいた。

「どうしてまた私がこういう役回りなのよ……」
「いやー、お姉ちゃんが適任ですヨ?」
 翌日の練習が終わり、葉留佳がたまたま通りかかった佳奈多を捕まえる。
「まったく、風紀委員長辞めてなかったら全員現行犯逮捕してるところよ。寮内でもいつも騒がしいんだから」
 ぶつくさ言いながらも、佳奈多は差し出されたデジタルカメラを構える。
「じゃ、撮るわよ」
 佳奈多の掛け声に、リトルバスターズの正式ユニフォームとなったジャンパー姿の十一人が好き勝手にポーズを取っていた。完成した集合写真の中央には、十二着目のジャンパーを掲げた佐々美の姿。

 ──この一着は、わたくしから古式さんへの贈り物ですわ。

    感動したですよ!!

      • Riina K.

      >優さん
      ありがとございます! 私が小説書くと基本的に本編の時系列に沿ったサイドストーリーみたいになるのは仕様ですw

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